研究班・課題の成果

地域統合情報発信

4班 「地域統合情報発信」総括

第4班・地域統合情報発信班は、「文化情報発信の新しい技術の開発」を主題に、1~3班による非文字資料の体系化作業と共同しながら(1)地域文化情報として統合的に発信するシステム、そして(2)その新技法に習熟した専門学芸員(シニア・キューレイター)養成方法の開発を目指し出発した。(2)は3年後、実験展示班として情報発信法としてのあらたな展示論とその人材養成も含め独立したセクションとなった。

研究経過

(1)非文字資料の資料化、データ化、体系化の手順を踏まえての公開化をソフト・ハードの両面から扱う対象地域として、国内では、福島県県只見町において民具・民俗・文書・景観資料を民具使用動作・民具写真・実測図、民俗誌の裏付け、文書資料との整合へと進み、環境景観の変遷・比較(ダム建設以前以後)の作業を通し有機的に関連させ山村の生活構造モデルを時間軸で提示、地域性解明また地域振興のための情報発信の場としての博物館のあり方を提示した。

国外では、中国・雲南省麗江にある東巴文化博物館・東巴文化研究所との協力関係の下に納西族の東巴儀礼・東巴文字・東巴経典の関係性を、身体技法(東巴儀礼)、画像化(象形文字)、文字化(東巴経典)、口承化(神話・年中行事)の諸相から把らえることを考え、初年度は、麗江、只見町において予備調査をおこなった。その結果、地域情報統合発信の場を只見町に決定した。只見町の選定理由は、地域住民の協力はもとより15年間におよぶ町史編纂事業が終了し、各種文書類、民具、写真をはじめとした映像資料から地質、動・植物などの自然誌資料までが網羅的に記録化・整理され、それらのおおよその関係性・体系性が16巻の町史本編・文化財調査報告書を参照することにより見通すことができ、これらさまざまな地域情報をクロスさせることにより只見町という山村地域の構造性を浮かび上がらせる可能性が高いと考えられたからである。

(2)学芸員養成課程のあり方を中心に、フランス・オーストリア・ドイツ・アメリカの博物館を調査し、地域と大学博物館の連携の必要性などの課題を得た。

3年度以降は、実験展示班の独立もあり、地域統合情報発信班では、只見町の地域統合情報をインターネット・エコミュージアムというシステムで発信する方法論に焦点を絞った。先述したように当初計画では、他班の研究成果、ノウハウに基づき、一地域である只見町の図像、民具、身体技法、景観のそれぞれの資料を統合的に重ね合わせて何が描けるかがわが班に求められた役割であった。例えば、田植えで実際に使われる民具を近世農書の記載・絵図と対照し、また民俗芸能である早乙女踊の田植えの所作と実際の田植え作業姿勢の異同をモーションキャプチャーの解析で比較する、電源開発や構造改善事業による農地環境の変化が、農法・農具にどのような影響を与えたのかなどいくつかの研究指標をたてたが、他班の成果と関係させて地域情報を統合的に関係付け発信するにはいたらなかった。そこで、只見町の住民自らが整理した約8,000点の民具カードのデータベース化を中心に据え、民具に込められた地域情報を最も有効に公開する方法としてインターネット・エコミュージアムというシステムを構想し、その開発を行った。すべての民具を扱うわけにはいかず、画像では屋根葺き職人関係の民具を事例とし、そこに登場する民具の検索からその民具に関係する世界が広がり、地域性の一端がわかるようにした。この間班員は、只見町の折々の生産活動、年中行事の調査をはじめ、古老からの聞き書き等のフィールド調査、民具撮影、民具記録カードのデータベース化、諸資料の映像コンテンツ化などの室内作業に取り組んだ。

この試みは当初の目的からは遥かに遠いが、構想だけは示せたものと考え、また、地域研究と情報工学、文系理系の学問の結合はもとより、大学と地域社会との連携、科学的知識と生活の知恵の総合化という新たな知のイノベーションに結びつく契機となるものと考えている。

研究成果

研究成果として、2003年度『年報 人類文化研究のための非文字資料の体系化』(1号,2004年)に3名、2004年度『年報 人類文化研究のための非文字資料の体系化』(2号,2005年)に1名、2005年度『年報 人類文化研究のための非文字資料の体系化』(3号,2006年)に3名が、それぞれ研究を発表した。

2006年度にシンポジウム「民具は世界を結ぶ」を福島県只見町において開催した。また、2007年度には、第3回国際シンポジウムにおいて、「地域研究と情報学の連携 -インターネット・エコミュージアムの可能性-」を報告した。

4班の最終報告書として、「地域情報学の構築 -知のイノベーションへの道-」を刊行した。

研究者(2008年3月31日 現在)

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