研究班・課題の成果
理論総括研究
6班 「理論総括研究」総括
研究経過
理論総括班の課題は、非文字資料とは何かを考察し、非文字資料研究の方法を整序し、非文字資料の体系化への筋道をつけ、さらにそれが人類文化の研究にとってどういう意味があるかを明らかにすることにある。非文字資料のように、これまで自覚的かつ意識的に取り上げられることが少なかった資料を対象とする研究の場合、なによりも個々の非文字資料に即した個別的研究の蓄積を前提にしてはじめてそのような課題への取り組みが可能になる。もちろん、少ないとはいえこれまでなされてきた研究の成果を検討することや抽象的レベルでの考察も必要であろう。理論総括班は、本プログラムにおいて推進されてきた個々の非文字資料の研究状況を検討しつつ、そうした作業もおこなってきた。
しかし、理論総括班としては、あくまで自分達の経験、研究成果に依拠しつつ、その一般化を中心的課題として自らに課してきた。したがって、本班は、各班、各課題の動向に注目し、適宜各班・課題からの報告を受け、それを素材として考察を進めるという方向を選択した。また、各個別研究班・課題が、自らの経験を理論的に整序し、問題提起することを進めてきた。
実際には、各年度の全体研究会における各班からの報告を受け、全体的研究状況の把握に努め、国際シンポジウムなどへも積極的に参加し、理論的に考察を加えるべき素材を収集してきた。さらに、4年目からは、個別テーマの研究の進捗を前提として、各班の代表者による報告を中心とした研究会を開催し、個別資料の研究から生じた問題点を整理し、「非文字資料の体系化」という困難な理論的課題に取り組んできた。
研究成果
本班の研究成果は、すでに国際シンポジュウムあるいは全体研究会の報告・コメントなどの形で発表してきたが、最終的には、論集『非文字資料研究の理論的諸問題』としてまとめた。
本論集に収載した3つの論文は、少数とはいえ、そうした活動の成果である。まず、非文字資料の認識論的基礎を哲学史あるいは認識論的観点から論じ、非文字資料の研究成果が人類の知的財産として認知されるために不可欠の課題に挑んだ論文、つぎにそれへの批判の形をとって自らの研究の経験を普遍化し、非文字資料研究の具体的進展に資するために執筆された論文、さらに、本プログラムの全体状況を鳥瞰しながら、「人類文化研究のための非文字資料の体系化」というタイトルに掲げられた課題への理論的諸問題を整理し、さらなる理論形成へ展望を開く試論が展開された。
「ミネルバの梟は夕暮れに飛び立つ」ということわざがあるように、体系的理論の形成は、その領域の研究がある程度完成に近づいたときにのみ達成される課題であるとすれば、非文字資料の本格的な体系的研究は、本プログラムにおいてはじめて取り組まれた課題であり、完成に近づいたとは到底いえないが、今後の課題や方向性を提示することができた。